毅然とし、それとなく。

気まぐれでありつつ適当に書き記す。

【東方小説】東方刻奇跡 23話「禁忌」

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 此処は人間の里。早苗は自身の目的――信仰を集めて早苗自身にとって大切な神様である神奈子と諏訪子を復活させること――を達成するために、軽い芸や説明をしていた。
 早苗の額には、多少の汗が流れていた。陽を浴びて暑いわけでも炎に触れているわけでもなく、精神的な焦り――焦燥が早苗の脳内を支配していたからだ。今までのように気楽に出来るほど早苗は心は出来ていない。少しでも遅れてしまえば、もうどうにもならなくなってしまうかもしれない……。
 早く。早く。早く。そんな思考ばかりが早苗の脳内を張り巡らされていた。若干のイラつきを覚えながらも、早苗は周りの人間の様子がおかしいことに気がついた。いや、正確には全員ではない。純粋に信仰するために此処にいる人と、好奇心等の理由で近づいている人に分かれているようだった。
 理由は至極単純、早苗の境遇を知っていてわざわざ見に来る人間がいるのだろう――信仰もせずに。そんな人間達の奇怪な物やゴミを見るような眼と腫れ物のような扱い方に早苗は吐き気を覚えた。こんなところに今はいたくない。
「……はい!それでは今日はこれでお仕舞いにしようと思います。皆さん、守矢に信仰してくださいねー!」
 素性を知られないために早苗は精一杯元気な風を装い、早々にその場を立ち去った。立ち去る途中、群がる人間の中から舌打ちが聞こえた気がした。――もう来るな、とでもいいたいのか?何も知らないクセに――。
 早苗はこの時、一部の人間達の守矢の認識は大きく変化していることにまだ気付かなかった。




            第五章 漸うの桜




 信仰を催促していた場所から離れ、里を歩くことにした。
 これからどうしようか――人間の里にばかりいるのではなく、他の場所へ行って信仰をお願いしてみるのも悪くないが……。そこまで考えたところで、目の前に見覚えのある姿を見かけた。早苗は一旦考えを振り払ってから、小走りになってその後姿に声をかけた。
妖夢さん!」
 早苗が声をかけると、振り返ったのは予想通り魂魄妖夢だった。
「早苗!五年振りね……やっぱり、あの時から何も変わっていないのは本当だったのね……」
 妖夢は少しだけ哀れんだ瞳で早苗を見たが、すぐにそれを振り払うようにかぶりを振った。
「ううん、違う。元に戻れたのよね!おめでとう!」
 そして無邪気に笑った。その妖夢はというと、全体的には五年前と何も変わっていない。半人半霊だから歳を取るのが遅いのだろう。強いて違うところを上げるとすれば……髪型がボブカットではなくバラバラの長さに切り分けたショートヘアーになっている。少しだけ男性のような髪型にも思える。
幽々子さんは元気ですか?」
 そう早苗が言うと、妖夢は相変わらず、と言った風に困ったような表情をした。
「そうですか……変わってなくてよかったです」
「おかげで私は年中忙しいんだけどね」
 二人で笑いあった。一頻り笑いあった後、早苗はふと思い出した。八雲紫のことだ。何故紫は早苗を眼の敵にしているのかずっと謎だった。友人である幽々子なら何か知っている可能性がある。
妖夢さん……八雲紫について何か幽々子さんから聞いていませんか?」
 妖夢はきょとんとした様子でかぶりを振った。
「紫さまがどうかしたの?」
「いえ、ちょっと気になったことがあって……」
「それなら、直接幽々子さまに聞いたほうが早いわよ。丁度買いだしを終えたところだし、一緒に白玉楼に行きましょ」
 妖夢がそう言った。確かにその方が良い。何か聞ければ今後の対策になるだろうし、ついでに信仰してもらうよう頼んでみよう。――最悪の場合……幽々子も紫側ということも一応想定しておこう。
 早苗は、妖夢に連れられて人間の里を出た。





 しばらく歩いて、気付けば森の中にいた。
「もうすぐよ。ちょっと暗くなってきちゃったわね、良かったら白玉楼に泊まっていくといいわよ」
「いいのですか?ありがとうございます!」
 そんな会話をしていると、早苗達は違和感を感じた。
「……何かいますね」
「ええ……気をつけて。――早苗、上!!」
 妖夢が早苗に向かって叫んだ。それに反応した早苗は反射的に大きく後ろに下がっていた。その瞬間、早苗が立っていた場所には剣のようなものが突き刺さった。……危なかった。完全に注意散漫だった。妖夢の忠告が無ければどうなっていたことやら……。
「ちっ……外したようね」
 そしてどこからともなく声が聞こえた。早苗と妖夢は辺りを見回して、上空を見た瞬間驚愕した。
「――八雲、紫……!」
 早苗が無意識に呟いていた。紫は滞空したまま早苗を見下ろしていた。
「今度こそ消えてもらうわ……東風谷早苗
「いい加減にして下さいッ!!理由も無しに存在を消されるなどと……おかしいにも程がありますよ!!」
 早苗が紫を見上げながら喚くが、その言葉に紫は何も言わなかった。すると、唇の片方の端をニッとつり上げた。
「……出てきなさい」
 紫が一言呟くと、何やら背後から羽が生えたものが――
「――!!」
 ま、さか。そんな。どう……して……。












































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 早苗は、絶句した。
 フランドールが、機械と合体して――サイボーグと言ったほうが分かりやすいか――紫の隣で浮いていた。
「なん、で……フランドールさんは、あの時……」
 背後で息を呑む音が聞こえた。妖夢も紅魔館の事件は噂程度には聞いていたのだろう。
 そう。フランドールはあの時レミリアと一緒に消滅したはずなのだ。だが、こうして目の前に立ち塞がっている。――何故?早苗はここで、嫌な予感を感じた。……まさかッ!!
八雲紫!!あなたは……あなたはなんて残酷なことをッ……。あなたはやってはいけないこと――禁忌に触れてしまった!!」
 それに関して紫は冷たい眼のまま何も言わなかった。まるでこれは尊い犠牲、止むを得ないものだというように。
 早苗は、あの時の美鈴の言葉を思い出していた。――フランドールの遺品が無くなっていた――と。恐らく紫が身体ごと回収して、本来あそこで死ぬはずだったフランドールを改造して無理矢理蘇生させたのだろう。
「何も感じないのですか……あなたは!!増してフランドールさんは……大切な二人を亡くしているのに……こんなの……酷過ぎま――」
 パチン――――
 早苗の喚き声を遮るように、紫が指を鳴らした。その瞬間、早苗と妖夢を囲むように妖怪が現れた。
「さあ、行きなさい。東風谷早苗を消すのよ」










To be continued…