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毅然とし、それとなく。

気まぐれでありつつ適当に書き記す。

【東方小説】東方刻奇跡 24話「試作品」

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 紫の一言で、早苗たちを囲む妖怪達は一気に動き出した。もちろん、フランドールも然り。それを見た早苗と妖夢は身構え、いつでも反応出来るような体勢をとった。
「紫様!何故こんなことをするのですか!早苗が何をしたというのですか!?話してください!紫様!!きっと何かの勘違いですよ!!」
 妖夢が叫ぶが、紫は微動だにすることはなかった。むしろ、早苗の味方をするならば妖夢もろとも潰すつもりのようだった。
「紫様……!?」
妖夢さん!ここはやるしかありません!」
 早苗は奇跡の詠唱を唱え始めた。妖夢は止むを得ない、といった様子で剣を構え始めた。
 そういえば、周囲にいる妖怪たちは何なのだろうか。見た目こそはどこにでもいそうなものであるものの、明らかに様子がおかしいのは確かだ。それに、妖怪がそう易々と協力を承諾するとも思えない。ということは、紫に操られているという線が一番強いであろう。あくまで憶測に過ぎないのだが紫ならばそんなことも可能であろう――それに、フランドールの例もある。
 一通り詠唱を終わると、早苗と妖夢の身体を暖かい緑色の光が包んだ。これを使えば致命傷はそう簡単にはならない。
「……フランドールさんは攻撃しないで下さい。私が説得……いえ、元に戻してみますから」
 妖夢は静かに頷き、剣を上に立てて自分の胸の前まで持ってきた後、ゆっくりと眼を閉じた。精神統一しているようだ。刹那の時間経過の後、妖夢は大きく眼を見開いた。
「早苗ッ!大きく跳んで!!」
 その叫び声に言われるがまま早苗は大きく跳躍した。下を見ると、妖夢が囲む妖怪達に向かって回転斬りをしていた。その斬撃からは弾幕が放たれ、妖怪達を一掃する様が見て取れた。だが、それでもまだ妖怪達は残っているようだった。妖夢が心配だが、フランドールのほうが優先だ。早苗は跳躍した体勢のまま空を飛び、フランドールの元へ近づこうとした。
 だが、それは叶わなかった。ほんの数ミリの距離で、紫がフランドールごとスキマによって転移した。再び中距離になったところで、早苗は大きく叫んだ。
「フランドールさん!私です!早苗です!私がわからないのですか!?」
 必死に呼びかけるが、フランドールは虚ろで焦点の合っていない瞳のまま、早苗のいる方向を見ていた。だが、それは早苗を見ている訳ではなかった。
 フランドールにとって早苗は大切な存在ではない。ついこないだ、ちょっと見たことある程度の存在だ。でも、それでもそれを思い出して連鎖的に全てを思い出していけばきっと……。
「あなたには大切な人たちがいるでしょう!!紅魔館にいる人たち――美鈴さんにパチュリーさんに咲夜さん――そして、レミリアさんが!!」
 正直、失言だと思った。何故ならレミリア咲夜は既にいない。だから正気を取り戻した時に絶望するはずだ、と思ったからだ。しかし、こんな状態になってまで生きることをフランドールは望まないと思う。フランドールは恐らく、レミリア咲夜と一緒に逝くことを望むはずだ。それならば、いっそのことこの手で――。
 その思考は、突如のフランドールの苦しみ声により遮られた。きっと、私の声が届いたんだ、と早苗は思った。このまま、正気を取り戻してくれるように頑張らなくては……。そう考えた瞬間、紫が舌打ちをするのが聞こえた。
「まだ調節が甘いようね……この試作品は」
 ――試作品?
 その言葉を聞いた瞬間、早苗は身体がぐらつくのが見てわかった。
 試作品……?試作品だと……?この人は何も感じていないのか……?自分が何をやっているのか本当に分かっているのか?その試作品がなんだか分かっているのか?一つの命なのだぞ?増して、一度は尽きた儚い命なのだぞ?それを……それを物扱いするなどと……!!
 早苗は片手に力が込められていくのを感じ、さっきよりも強い憤慨を覚えた。
八雲紫……!!あなただけは……あなただけは!!!」
 今怒っているのは、フランドールのこと――もちろん、それも怒りを覚えているのだが――ではなく、目の前の紫の行動がただひたすらに許せなかったからだ。この人だけはここで撃退しなくてはならない……!
「あああぁぁぁ――――――――――――ッ!!!」
 早苗は即効で出せる弾幕を精一杯に放ち、大きく羽ばたいて紫との距離を詰めて蹴りを入れようとした。弾幕で辺りが煙に包まれる。早苗は紫がいた位置に強く蹴りを入れようとしたが、そこには紫――もちろん、フランドールも――の姿は無かった。何も考えずに突っ込んだのだ。当たるはずもなかった。
「試作品がこんな状態じゃ……まだ駄目ね。――命拾いしたわね、良かったじゃない」
 いつの間に背後に回っていた紫は、そんなことを呟いてからフランドールとともに静かに消えていった。逃がすまいと手を伸ばしたが、遅かった。すぐに追いかけようとしたが、当てがないのでどうしようもない。それが分かると、早苗は急に疲れが身体中に回ってくるのが感じ取れた。
 休んでいる暇はない――妖夢のことが心配だ。行ってみよう。
 早苗はふらふらと空を飛びながら、元の場所へと戻っていった。
 ……紫は――試作品がこんな状態じゃ駄目――と言っていた。何故わざわざフランドールを使おうとしているのだろう?紫は大妖怪、賢者だ。早苗くらいの存在を倒すことなど容易いだろう――もちろん、やられるわけにはいかないのだが。何かあるのだろうか――?
 考えても思考がまとまることはなかった。







To be continued…