毅然とし、それとなく。

気まぐれでありつつ適当に書き記す。

【東方小説】東方刻奇跡 29話「親友」

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「そういえば」
 自己紹介の後、それぞれ――椅子に座ったり、粗茶を飲んだり――ゆるりと休息を取っていた。その最中、早苗がふと声を上げて、加奈を見た。
「どうして幻想入りした私のことを覚えていたの?外の世界ではもう忘れ去られているはずなのに」
 忘れられている。今更ながら、早苗はそのことを自分の口から理解させられた。ずっと考えないようにしていたことだった。しかしそんなことは、既にこの世界に来る以前に覚悟していたことだ。何を感じようが、本当に今更なことだった。
 忘れられるということは、切ない。あるいは、死ぬよりも遥かに。
 それでも……忘れられても、別に良かったかもしれないな。
 幼い日の記憶が脳裡に蘇ったのを振り払っていると、早苗の言葉を聞いた加奈は胸に掌を置いて、瞳を閉じながら言った。
「早苗ちゃんのことを忘れるなんて、そんな酷いこと出来ないよ。私達、ずっと一緒だったじゃない。助け合って、笑い合って、いなくなるまでずっと、ずっと。きっと早苗ちゃんへの想いが強かったから、忘れなかったんじゃないかな」
 それを聞いて早苗は、ああ、と安心した気持ちになった。この娘はあの時から何も変わってない。落ち着いていて、優しい。本当に私の親友の、加奈なんだ。そう思うとなんだか一層心が安らぐ。しかし――忘れていないとなると、だ。早苗は脳裡に過ぎった疑問を口にしてみた。
「他の人との会話に、違和感があったんじゃないですか?」
 言った瞬間に加奈は苦渋の表情になった。やはりそうなのだろう。
「早苗ちゃんがいなくなった次の日、私は早苗ちゃんのことを忘れなかった。忘れなかったからこそ、周りの人たちとの会話が噛み合わなくなったの。それは最初だけだったんだけど……早苗ちゃんがいない前提で話すのに慣れる自分が怖かったの」
 加奈には、幻想郷のことこそ話していないものの、『遠いところへ行く』ということだけは話していた。その時に説明したのが、早苗のことを忘れてしまうことだった。早苗の脳裡に当時の会話が過ぎった。


 ――加奈ちゃん、そういうことだから、もうお別れだね……。
 ――でも、忘れるなんてそんな……そうだよね、早苗ちゃん、すっごく特別だもんね。私が関わっちゃいけないことなんだよね。
 ――ごめんね……。
 ――ううん、大丈夫。しょうがないんだよね……しょうがない。
 ――加奈ちゃん?
 ――ううっ……嫌だよぉ……忘れたくないよぉ……
 ――泣かないで……忘れても、私達は親友だよ。
 ――うん……私、決めた。早苗ちゃんのこと、絶対に忘れない。
 ――で、でも。
 ――忘れないでいてみせる。必ず。
 ――そっか。覚えていてくれたら、私も……癒される。ありがとう、加奈ちゃん。でも、これだけは約束して。覚えていても、私の事は探さないで。
 ――うん、分かった。私の方こそ、親友でいてくれてありがとう。


 加奈は約束を守っていたのだろう。守っていたにも関わらず、こうして再会出来た。これも奇跡の一環かな、なんて。
「そんなに私のことを想っていてくれたなんて……ありがとう、加奈ちゃん」
 早苗は微笑んで、お礼を言った。それを見かねていた魔理沙が加奈と早苗に向かって声をかけた。
「なあ、早苗と加奈は、外の世界では何をし合っていたんだ?」
 早苗と加奈は顔を見合わせて、二人ともくすりと笑った。
「そうですね……お互い、助けられていた、というべきですか」
 そう言ってから、早苗は少し苦い顔を浮かべた。それを見かねた魔理沙は、
「……ふむ。あまり聞かないほうが良さそうだな」
 と気遣いをしてくれた。その魔理沙に向かってすみません、と軽く早苗は会釈した。
 少なくとも5年以上前の話だ。早苗が幻想郷に訪れる以前、何をしていたのか。
 ――……
 再び過ぎった微かな記憶を振り払った。思い出に耽っている場合ではない。
 そんな中、扉の開く音が聞こえた。その音に振り返ると、逆光により明瞭ではないが人間の姿であることが僅かに確認出来た。
「……お前は誰だ?」
 魔理沙が警戒しながらも声を発する。突如訪れたその人間は魔理沙の言葉を無視してゆっくりとこちらへ向かってくる。やがて姿が明瞭になってくると、その人間は言わずと知れた存在だった。

 楽園の素敵な巫女。

 紅白に、腋の部分を曝け出した服、頭には大きく赤いリボン。間違いない――この幻想郷において重要な存在、博麗霊夢だった。いや……その存在を霊夢と言うには、圧倒的な違和感があった。
 白黒の仮面を身につけている。
 早苗たちが知っている博麗霊夢は、仮面を付けたことなど一度も無かったはずだ。何かのお遊びだとでもいうのだろうか。
「なんだ霊夢か……随分と久しぶりな気がするな」
 警戒を解いた魔理沙は、明るく笑いながら霊夢の許へと歩み寄った。魔理沙は、霖之助と結婚してからというもののあまり霊夢には会っていない――もとい、博麗神社に行くことが少なくなっていたようだ。異変にも向かうことが無くなっていたし、魔理沙は変わろうとしたのだろう。
 羨望し――嫉妬する自分から。
「色々と話したいことがあるんだ……お前もショックを受けるかもしれないが……大事なことなんだ」
 仮面をつけた霊夢?は何も答えない。それを見かねた魔理沙は、悩んでる仕草を見せたあとに、何かを思いついた様子を見せた。
「なんだよ、魔理沙様がしばらく会いに行ってやらなかったから寂しかったのか?意外な所もあるもんだな」
 へらへらとした様子で魔理沙が言う。霊夢?は静かに右腕を動かし、
「――――ッッッッ!!!」
 それを魔理沙にぶつけた。
 魔理沙霊夢?側から見て左に大きく回転しながら吹き飛ばされ、逆さまの状態で木製の壁に激突した。物が辺りに散らかるが、幸いなことに魔理沙の上に落ちることはなかった。
魔理沙さん!!」
 霊夢?の仮面の目元の穴から赤い光が爛々としているのが見て取れた。
 早苗と加奈は身構える。霊夢?は吹き飛ばされた魔理沙を歯牙にも掛けず、ゆっくりと加奈に向かって歩み寄っていく。
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 目的は加奈ちゃん……!?
 それを確認した早苗は躊躇せずに霊夢を突き飛ばそうと全速力で駆けた。それを霊夢?は避けようともせずに、
 命中。
 そして霊夢?は掻き消えた。手応えは無かった。嫌な予感がして、早苗は加奈のいる方向へ振り向いた。
 霊夢?が加奈に触れようとしていた。この技は見覚えがあった。亜空穴。ワープをして奇襲攻撃をする技だ。
「あ……ああ……早苗ちゃん!助けて!何だか、嫌な感じがするよ……あの変な女の人みたいな……嫌な感じが――」
 霊夢?によって気絶させられた加奈は叫びきれずに仰向けに倒れた。そんな加奈を霊夢?は抱きかかえ、急激な速度で香霖堂から出て行った。
 まさか……これも、あれの仕業なのか……?
 早苗が硬直し加奈の言葉を反芻していると、視界の隅で魔理沙がゆっくりと立ち上がるのが見えた。魔理沙は外を睨みつけ、
「クソッ!何がどうなっているんだ!!早苗、追いかけるぞ!!」
 そう叫んだ。早苗は頷くと、魔理沙は霖太郎を見て頭を撫でた。
「……霖太郎、お母さん、ちょっと出かけてくる。良い子にして待ってるんだぞ」
 霖太郎は静かに頷いた。それを確認した早苗と魔理沙は再び頷きあい、外へと躍り出た。







To be continued…

あとがき
やっと続き書けたよ!!!凄く忙しくて全然書けなかったよ!!
ペース、上げられるといいなぁ……。