毅然とし、それとなく。

気まぐれでありつつ適当に書き記す。

【東方小説】東方刻奇跡 28話「再会」

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(※この章はオリジナル要素が多少含まれていますがそこまで重要な立ち位置じゃないので気にしないでください)








「色々と、有難うございました」
 夜が明けて、真昼時になった。あの後白玉楼で休息を取った早苗は、また自らの目的の為に行動を起こそうとしていた。妖夢とともに白玉楼の入口へとやってきた後に、一言お礼をしたのだった。
「気にしないで。幽々子様も、せめて早苗を見送ってから行けばよかったのに……本当に、どんな用だったんだろうなあ……」
 そう妖夢がぽつりと呟くのを見て、早苗は何も言えずにただ俯くしかなかった。幽々子は突如西行妖の封印が解けて、原因不明のまま消滅してしまったのだ。恐らく妖夢は何も言わずとも自ずと気付くであろうが、先に言っておくべきか……いや、そんなことはしないほうがいい。ここは幽々子の気持ちを汲んでやろう。それよりも――この謎を解明しなければ。
 でも、なんだろう――とても近いところに答えはある気がする――。
「じゃあ、信仰集め、頑張ってね。私も、出来る限り協力するから」
 妖夢が笑顔でそう言ったのを軽く会釈して、早苗は白玉楼を後にした。……あっ。そうか。この長い階段下らなきゃいけないんだっけ……。溜め息を吐きながらゆっくりと階段を下り始めた。






            第六章 幼き日の記憶






「……ぷはああぁぁぁぁあああ~~~~っ!!」
 やっとのことで白玉楼の階段を下りきれた――空を飛べることを忘れているらしい――早苗は、結界を通り過ぎた後地上に降り立ってすぐに両手を膝に置いて少し前屈みの状態になって大きく深呼吸をした。正直休憩無しで行くとなるとあの階段は辛い。もう登りたくない。さすがに疲れた。少しだけ休憩してから先へ進もう。と座ろうとした瞬間、木陰に何か動くものが見えた。それを見た早苗は大きく眼を見開いて戦慄した。あれは――あれは!!
 早苗は急速な勢いで立ち上がり、その影を追いかけた。先程までの疲労など既に忘れ去っていた。あれは、私がこの世界に来る前の大切な、大切な――!



「さなえちゃん!あそぼうよ!」



「加奈ちゃんっ!!」
 早苗は大きく叫び、その先を行く影を呼び止めた。影は振り返ると、やはりその姿は幼き日からの親友、加奈だった。感極まって抱きつこうとしたが、加奈までの道のりによりそれは叶わなかった。いつの間に乗り越えたのか、加奈は崖を越えた先に居た。全力で走り抜けてきて唐突に急ブレーキをかけたので少しバランスが崩れてしまった。何とか持ち直して、加奈のいるその先を落ち着いて見た。加奈はこちらを振り向いて驚愕しているようだった。どうやら幻想郷に迷い込んでしまったのだろう。……何故?考えても仕方が無い。それならば実際に聞いたほうがまだ早い。早苗は再び大きく叫んだ。
「どうしてこんなところにいるの!?ここは、あなたが来るべき場所ではないのに!」
 そう問うが、加奈は混乱するように頭を振っていた。
「早苗ちゃん、久しぶり……説明したいところなんだけど、何がなんだが分からないの……変な女の人に連れ去られて……なんというか、その人から嫌な感じがしたの。無我夢中で逃げてきて、気がついたらここにいて……」
 変な女の人……?そんなのが当てはまるのは、紫ぐらいだが……何故加奈をここまで連れて来たのだ?人質か何かにでもする気だったのか……?だとしたら、奇跡的に逃げ切れたということか。
「そっか。無事なら良いの。兎に角、安全な場所へと移動しましょう」
 安全な場所、か……早苗は無意識に自分の言葉を脳内で反芻し、笑みが少し引き攣るのを感じた。こんな状況下だから魔理沙にお世話になるしかないが、魔理沙は立ち直れただろうか……。あれから香霖堂には訪れていない。ここ数日の間は、野宿で何とかやりくりしていたのだった。早苗は空を飛んで崖を飛び越えると、加奈の近くへと寄った。本当は、このまま抱きつきあって再会を喜び合うべきなのだろうが……最近の出来事があまりにも辛すぎて不思議とその気にならなかった。早苗は加奈に歩く道を指し示すと、進むのを促した。


 香霖堂へ入ると、今は亡き霖之助の椅子に座って魔理沙は霖太郎に絵本のようなものを読み聞かせているようだった。見ると、魔理沙はところどころ読み間違えたりつまづいている。読み聞かせなんてあまり経験したことがないのだろう、仕方が無い。早苗と加奈は入口の隅に隠れてそれを邪魔にしないように配慮した。


  あるところに、とってもすばらしいちからをもったインコさんがいました。

  インコさんはやさしいので、そのすばらしいちからをつかってこまっているひとたちをたすけていました。

  けれどあるひ、インコさんはそのちからをまちがったつかいかたでつかってしまったのです。

  なんにんものちからのないひとたちがいなくなっていきました。

  やがて、インコさんじしんすらも……… ………


「あれ、破れてるみたいだ……」
 話の途中で、魔理沙がそんな声をあげた。どうやら絵本が破れていて、続きが分からないようだ。魔理沙が困った声を上げている中、霖太郎が少し怖がりながら魔理沙に話しかけた。
「おかーさん、このおはなし、こわいはなしなの……?」
「そんなことはないぜ、インコさんはきっと皆を幸せにするはずさ」
 霖太郎のそんな声に苦笑しながら魔理沙は答えた。絵本の内容は終わりか、ならばそろそろ出てもいいだろう。早苗と加奈はゆっくりと物陰から身体を動かし、魔理沙に姿を現した。二人を見た魔理沙は顔を赤らめながら驚いた。
「い……いつからいたんだ?」
 眼を見開いて恥ずかしがりながら魔理沙が問いてきた。その様子に少しだけ吹き出しながらも、早苗は答えた。
「随分と女らしくなったんじゃないですか?子供の絵本だなんて」
「う、うううるさい!私だって女だ!こんなことだってするさ……それに、香霖も同じことをしていたからな……」
 片手で顔を隠しながら魔理沙は誤魔化すように半ばやけくそに叫んだ。この様子だと、霖之助がいなくなったことは大分克服できたらしい。それを知った早苗は胸を撫で下ろした。魔理沙は数秒の間恥ずかしがっていると、やがて加奈の存在に気がつき、それとともに首を傾げた。
「そいつは?」
「この子は私が外の世界にいた時に凄く仲が良かった子です。どうやら紫が何故かここに導いたみたいで……」
 早苗は少し後ろを向いて加奈を見ると、加奈は頷いて一歩前進して魔理沙に軽く会釈した。それを見た魔理沙は同じく会釈するが、傾げた首は元には戻らなかった。
「幻想入りしちまったのか……そりゃお気の毒、だな。私は魔理沙だ。まぁゆっくりしていくといいさ。幻想郷は全てを受け入れる。ここには外の世界にないものがたくさんあるぜ。……しかし、紫がか。気まぐれにしちゃあ偶然すぎるよな。あいつは早苗の命を狙ってきてる。人質か何かにでもするつもりだったんじゃないか?」
 その言葉に早苗は頷いた。
「何とか逃げ切れたみたいですけど、またいつ捕らえに来るか……」
「それもそうだな……しばらくは家にいるといいぜ。人が増えると霖太郎も喜ぶはずだ」
 魔理沙は笑顔になってそう言った。




 場所は変わって、博麗神社。
 霊夢は縁側でお茶を啜っていたが、その表情は曇っていた。霊夢は、これまでの異変に全て勘付いていた。その度に動こうとしたのだが、紫に止められてどうすることも出来なかったのだ。それ故に気分は晴れぬまま日々を過ごしていたのだった。
「全く、異変に行くなってどういうことなのよ紫の奴……。私の勘はもう何度も反応してるっていうのに……」
 ぼそりとそんなことを呟くと、視界の隅にスキマが現れるのが見てとれた。言わずとも紫であろう。監視にでも来たのだろうか。
「紫、いい加減にしてよね。もうむず痒くて仕方ないわ」
「……」
 紫は霊夢の問いには答えず、俯いたままだった。それに霊夢は首を傾げると、紫は静かに口を開いた。
「――霊夢。真実を教えてあげる。あなたの、過去の真実を――」






To be continued…