毅然とし、それとなく。

気まぐれでありつつ適当に書き記す。

【東方小説】東方刻奇跡 26話「妖怪桜」

東方刻奇跡まとめへ戻る
【2014年4月2日、東方刻奇跡のタイトルロゴ作成してみました。上記のリンクからどうぞ↑】







 早苗が告げた言葉を聞き取った幽々子から徐々に笑みが消えていくのが見てとれた。それを見た早苗は、自分自身の行動を後悔した。浅はかだったかもしれない――。幽々子は、笑みが消えるとともに寂しそうな瞳をしながらゆっくりと溜め息を吐いた。早苗は戦うことを覚悟し、ゆっくりと戦闘体勢を取った。
 思えば自分のこれまでの行動は馬鹿丸出しだ。噂に聞けば幽々子は紫の親友だそうじゃないか。だったら紫は仲間を増やしたり――あるいは相談か何かをしているかもしれない。本来ならば、わざわざ賭けに踏むことも無く避けるのが一番だ。何故なら――幽々子の「死を操る能力」は極度の危険性が考えられるからだ。その能力の詳細を聞かずとも分かる……もし幽々子が紫とコンタクトを取っていたら早苗は今ここで殺されてしまうことぐらい。
 先ほどまでの妖夢の様子から察するに、妖夢には何も知らされていないことは把握できる。そこは優しさなのだろうか。それともいつか妖夢を使って早苗を警戒させずに白玉楼へ来させるつもりだったのか――後者だったならば、今が実際そうだ。
 どうして今までこうした思考が回らなかったのか。フランドールのことで思考を妨害されてしまった。とにかく、幽々子が少しでも怪しい素振りを見せたらすぐに後退しよう。そう早苗は心がけるが、幽々子は早苗の思惑とは裏腹の行動を取った。
「ごめんなさい……紫のことは、何も知らないの。いえ、具体的には知っているのだけれど……立ち話も何だわ、中へ入りましょう」
 その言葉を聞いた早苗はゆっくりと体勢を元に戻し、そしてまた内心安堵した。良かった――と言いたいが、まだ杞憂であったとは言い切れない。油断させて殺すつもりなのかもしれない。ここで離脱するのが最適か――?しかし、もし幽々子に敵意は無いとしたら、こちらに紫の有力な情報をくれるかもしれない。
 例えば、ここで抜けたとして、それからはどうする?また紫が襲ってくるだろう。何も出来ずに殺されてしまうかもしれない。それだけはいやだ。また賭けをしてみるか……。
「では、お邪魔します」
 早苗は微笑みながらそう言って、幽々子妖夢とともに白玉楼の中へと入っていった。


 十畳ほどの広さで、真ん中には木製の四角いテーブルが置いてある和室へとやってきた。どうやら普段はここで飲み食いしているようだ。早苗は妖夢に着席を促されて静かに座った。一方幽々子はというと早苗とは逆の位置に座り、向かい合っている状態が出来上がった。
「では、私は何か飲み物を持ってきますから、どうぞ先に話していてください」
「いえ、妖夢も一緒に話を聞いて頂戴。お茶は後でいいから」
 それを聞いた妖夢は口答えしようとしたが、幽々子は珍しく真面目な様子だったので渋々幽々子側のテーブルの縁に座った。それを確認した幽々子は、早苗の方を向いてゆっくりと話し始めた。
「私、最初にあなたのことを見た時にしばらく喋らなかったでしょう?あれは別にあなたのことを忘れていた訳じゃなくて、紫からの話題に出ていたから戸惑ったのよ」
 紫からの話題、と聞いて早苗は少しだけ驚愕した。
「やはり八雲紫はあなたのところへ来ていたのですね?」
 幽々子はゆっくりと頷いた。
「というより、私が呼んだのだけれどね。何だか最近様子が変だから白玉楼まで呼んで話を聞こうとしたんだけど全然教えてくれなくて……。ただ『東風谷早苗を殺す』としか言っていなかったし……」
 早苗は、三度安堵した。これで本当に安心出来る。しかし、紫は仲間すら集めずに何故早苗を殺そうとするのか……謎は深まるばかりだ。
「力になれなくてごめんなさい……良かったら、今日は白玉楼に泊まっていきなさいな。疲れてるでしょうし」
「あっ……ありがとうございます!それなら、ちょっと外に出てみてもいいですか?冥界の空気を吸ってみたいんです」
「全然いいわよ~。滅多に来られないでしょうしね」
 その幽々子の言葉を聞きながら早苗は襖を開いて縁側へと出て、大きく息を吸った。ほう……ふむ……なるほど……うん、違いが分からない。似たようなものなのだろうか?
 そんなことを考えながら深呼吸していると、何やら大きな桜の木が見えた。そういえばここに入る時にも見かけたがあれはなんだろうか。すると、そんな早苗の気持ちを察したのか隣まで幽々子が歩いて来て、一言言った。
「あれは西行妖。妖怪桜よ。あなたも話くらいなら聞いたことがあるんじゃないかしら?」
 そういえば……確かにそうだ。幽々子はこれを咲かせる為に春雪異変を起こしたのだと聞いたことがある。
「それから西行妖、満開にはなったのですか?」
 早苗が言うが、幽々子は困ったような顔をしながらかぶりを振った。
「春雪異変程の行動を起こさなきゃこれは満開にはならないわ……全くもう、いつになったら見られるのかしら」
 西行妖の美しさとその下に封印されている物。それは何なのだろうか。どちらも幽々子は見たことがないのだ――もちろん早苗も。
「良かったら近くに行って見て来てもいいのよ?減るものでもないし」
 幽々子にそう促され、早苗は頷いた。


 遠目に見ても――例えそれが枯れ果てていたとしても――凄まじい雰囲気を感じ取れたのだが、実物を近くで見るとやはりそれは倍になってくる。早苗は西行妖の目の前に立っていた。春雪異変の時は咲きかけの状態だったという。これぐらいの桜の木だと、咲きかけだったとしてもさぞかし美しいのだろう。見ることが出来なかったのが非常に悔やまれる。
 早苗は西行妖の横の部分にゆっくりと手を触れた。
 手触りは普通の木と変わらないがとても大きい。一体どれくらいの年月が経っているのだろうか――早苗はそのまま西行妖を手で撫でながらそう思った。そしてこの真下に何かが封印されている。そう考えるとなんだか不思議な気分になってくる。
 どうしたら咲かせることが出来るのだろうか――――


 幽々子は、さっきまで早苗と話していた部屋で静かにお茶を飲んでいた。しばらくぼうっとしていたが、やがて身体の様子がおかしいことに気がつく。
「ッ――――」
 少しだけの痛み。それだけのように思えた。けれど幽々子は大切なことを理解した。
「そう……そうだったのね」







To be continued…