毅然とし、それとなく。

気まぐれでありつつ適当に書き記す。

【東方小説】東方刻奇跡 17話「Fairy's Requiem」

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 怒りに任せてチルノが襲い掛かってくる。理由があるのは明白なのだが――そんなことを聞いている余裕はない。今、早苗に出来る事は悔しいことに何もない。余計に手を出せば邪魔になってしまう可能性がある。サポートと大妖精の考えている策が効くことを祈るだけだ。
 現状把握をしよう。まず、今いる玉座の間はチルノの攻撃により既にボロボロだ。一方大妖精はというと、一切攻撃はせずにチルノからの攻撃を受け流している。妖精でもあんな動きが出来るものなのか。――いや、恐らくこの状態のチルノを知っているようなのだから攻撃は知り尽くしているのだろうが――それでも凄い。
 すると、チルノは小さく尖った氷を無数に放った。なんだか「アイシクルフォール」を想起させるようなものだ。それを見た大妖精が小さく笑い、その無数の弾幕の中に突撃した。そして間を素早く移動しチルノの横を通り過ぎた。
「あの時から変わってないね…チルノちゃん!一定の軌道を通れば無傷で通れるのが一緒!!増してそれをよく知っている私に撃つなんて…まるで本物の『馬鹿』みたいだね!妖精の頃が長かったから一緒に馬鹿になっちゃったのかな?」
 そしてとにかく煽る。その大妖精の様子を見ていると、なんだかチルノのようだ。大妖精にもきっと普通の妖精らしい仕草の時があったと推測すると、その名残だろうか。その言葉に更にチルノは激しく激昂しそして、
「なめるなっ…うおおおぉぉぉぉぉおぉぉ!!!!」
 気合とともに四方八方に弾幕。なるほど。これは「パーフェクトフリーズ」だな。さっきの「アイシクルフォール」の時もそうだが、妖精の時と比べるととてつもなく強化されているようだ。封印前のチルノ――そして、その妖怪であったチルノの母親はどれほどの力の持ち主だったのだろう?と、ここで早苗は違和感を感じた。
 ――そんなに強大ならば話題を聞いてもおかしくないのではないか?なのに今まで全く聞いたことがない。何故だ――?
 それも大妖精が知っているような気がした。尤も、今は聞けないのは解っているが。その大妖精はパーフェクトフリーズをグレイズしながら避けていた。さすがにこれは癖みたいなものは無いらしい。すると今度はチルノがにやりと笑い、指を鳴らした。
「ふふ…あの時のままだと思ったら大間違いよ!」
 その瞬間、分散していた弾幕が破裂し、更に細かい弾幕が無数に広がっていった。それを見た大妖精は驚愕の表情を浮かべるが、すぐに回避しようと行動に出る。やはり完全に回避するのは容易ではないらしく、さっきよりもグレイズが増えてしまっていた。直撃しないだけまだマシか――と早苗が胸を撫で下ろしていると。
「く…?!あぁ…っ!」
 突如大妖精が呻き声をあげた。見ると、更に分散した弾幕弾幕同士が糸で繋がりあい、大妖精の身体を締め付けていた。それを確認したチルノが勝利を確信したように笑みを浮かべ、笑い出した。しかし涙がぽろぽろと零れ出ていた。
「あは、あははははは、あははははは…!!これで終わりにしてあげる!初めにあなたを私が討つ…!!」
 そして右手に氷で出来た大剣を作り出し、確かめるように一振りしてからそれを後ろに構えて大妖精に向かっていった。
 まずい!
 早苗は一目散に走り出そうとした。
「早苗さん止まって!」
 大妖精が叫ぶ声に、早苗は止まってしまった。大妖精の顔を見ると、これでいいんです、と伝えているように見えた。
 どうして――と問う間もなく、チルノの大剣が大妖精の腹部を貫いた。
 ――――――!!!
 早苗は言葉を失った。なんて、むごい――。
 すると、チルノは涙を流しながらもさっきとは違う恍惚の笑みを浮かべ、舌を捲くし立てて喋りだした。
「やった…やったよ!やったよお母さん!!倒した!!殺した!!最初の恨みを晴らしたよ!!これが復讐の第一歩になるんだ!あははははははははははははははははははは!!!」
 チルノのその様子は、最早何がなんだか解らなくなっているように見えた。チルノが余裕を見せていると、その体勢のまま大妖精はチルノを強く抱きしめた。チルノは小さく呻き声を上げて大妖精のほうを見た。大妖精は悟ったような笑みを浮かべながらゆっくり喋りだした。
チルノちゃん、一つ忘れているね…妖精は死なないんだよ…幻想郷がある限りずっと…」
 それを聞いたチルノは激しく抵抗するが、大妖精は微動だにしない。
「構わない!復讐が終われば、幻想郷ごと壊してやる!!そして私もお母さんのところへ行くんだ!!」
 大妖精はかぶりを振る。
「…幻想郷はそんなに脆いところじゃないよ。博麗の巫女に退治されちゃうんだ。尤も…私が人柱力になって一緒に封印することになるけどね」
 ―――!?
 早苗はその言葉を聞き逃さなかった。人柱力?一緒に封印?まさか――!!さっき大妖精が言いかけた言葉はそれか!早苗は止めに入ろうと走り出した。
 すると、大妖精とチルノはそのまま急上昇し、天井を突き抜けた。早苗も飛び、それを追った。












 晴れ渡る大空の中で、大妖精はチルノを抱きしめたまま告げた。
「ごめんね、チルノちゃん。本当に……」
 その間もチルノは激しく抵抗するが、大妖精の腹部に突き刺さった大剣から手を離すことが出来なかった。手には、大妖精の身体を縛っている糸。自分の罠に自分でかかってしまったのだ。
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 しばらく上昇した後に、勢い良く急降下して城へ突撃した。その時に起こった風に巻き込まれ、早苗は湖の外側へ放り出された。
 城を突き抜け、湖の奥深く、更に奥深くへと潜っていく――やがて動きを止めると、大妖精はチルノを抱きしめる力を強め、大きく言葉を発した。






 ――女王から説明された、チルノちゃん…そして城の封印の仕方。それはチルノちゃんを強く抱きしめて、そして一言――






「…鎮魂歌(レクイエム)」






 その言葉を発した瞬間、城が湖の中へと埋まっていった。――二人が戻ってくることは、なかった。





  ――チルノちゃん…ずっと、いつまでもここで静かに一緒にいようね……永遠をかけて、罪を償うから――

















 早苗は、呆気を取られているだけだった。ふと我に返って、湖を模索する。しかし、城やチルノ、大妖精がいた様子は全く無かった。まるで最初から無かったかのように。
 それが理解できると、早苗はまた一人立ち尽くした。…何も出来なかった。三人?だけの問題とはいえ――手を伸ばすことすら出来なかった。これもエゴだろうか。諏訪子様、神奈子様……私は、どうしたらいいんですか?
 立ち尽くしていても仕方が無い。早苗は、後ろ髪引かれる想いで香霖堂へと帰った。











 想い背負い、紡ぐ覚悟、私にはあるの?でもね、私、強くなるの、あの人の為に――




To be continued…


あとがき
水中で言葉喋れないだろとか言わないの。いいんだよ幻想郷だから。
前章と同じく、最後の部分はルーネイトエルフのサビと合わせて歌えます。ちょっと難しいかな?にしても歌詞これでよかったかな
それはそうと…思いついたネタを膨らませるんじゃなくて逆に捨てるのも悪くないんじゃないかなぁ、と思いましてね。あまりにも早苗と関係が無い話とか。2章3章で既に早苗空気だったけどそういう話だし
そうすることで物語を簡略化することも出来ますし、やってみようと思います。
さてさて、次なるお話は何かな…?