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毅然とし、それとなく。

気まぐれでありつつ適当に書き記す。

【東方小説】東方刻奇跡 16話「永い時を経て」

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***-大妖精-****

 チルノちゃんが目覚めちゃった。隠してきたものが無駄になっちゃったな。私は、チルノちゃんに母親を失ったってことを知られたくなかった。絶対に傷つく――そう思って。だから隠してきた。でも…よく考えればあの人の力が無ければこうしてチルノちゃんが目覚めることは無かった。きっとあの時にあの人が遺した力なんだろう――成長したチルノちゃんが、母親を亡くしたという事実を知っても傷つかないように。
 実際、チルノちゃんは妖精ながらもほんのちょっとずつ成長していった。これなら苦しみにも耐えられるはずだ、と横から見ていても思った。そういえば――天狗に取材されている時やお花がたくさん咲いた時…色んな時に、口調が妖怪の頃の『私』に戻っている時があったが、それはやはり妖怪の頃の癖が露わになっているのだろう。
 今、チルノちゃんは目覚めた。そして私に襲い掛かってきた。傷ついている様子は無かったけれど、その分怒りが強まっているようだった。まあ、仕方ないよね。こうなったのは私のせいでもあるんだから――。


 これまでにも何度も想起してきた。何十――何百年前かもしれない、あの時。忘れるわけがない。
 これは、ある二人の哀れな親子のお話――――――







 当時の私は、他の妖精と同じようにただ無邪気にいたずらしたり、遊んだりしていた。凄く楽しかったのは、覚えている。
 ある日、五人くらいのグループになって他の妖精と遊んでいた私は、小さい姿――もちろん、妖精の頃に比べれば十分大きいが――のチルノちゃんを見つけた。見ない顔だ、いたずらしてやろう、そう思った私たちは、チルノちゃんに向かって思いっきり飛礫をうった。するとチルノちゃんはそれをいとも簡単に素早く弾き返し、次に私たちを掴んでは投げ飛ばした。抗うことも許されずに私たちは吹き飛ばされ、木にぶつかった。それを見たチルノちゃんはにい、と笑いこう言った。
「私にいたずらしようなんて良い度胸ね!でも、ちょうどいいわ。あなた達、私の暇つぶしに付き合いなさい!」
 そういうと、チルノちゃんは私たちを引っ張りあげ、無理やり走らされた。後でチルノちゃんが『近くにそびえ立つ氷の城の女王の娘』だと聞いたときは全員でひっくり返ったのは覚えている。
 付き合わされた暇つぶしは、とても暇つぶしとは思えなかった。立て続けにチルノちゃんが投げる岩や木、草を避け続けるというものだった。もちろん、耐えられるはずも無かった。しかし倒れると、チルノちゃんがそばに寄ってきて、
「あらら~?どうしたのかしら?こんなにだらしないなんて妖精としてどうなの?こんなんなのにいたずらしてるなんてなめすぎなんじゃないの~?」
 と全力で煽ってくるのだ。そこまでいわれてはぎゃふんと言わせたい。だから私たちは避け続け、反撃の危機を窺っていた。だが、それでも段々と暇つぶしに付き合う妖精の数が減ってくる。避けて避けて、耐えて耐えて。そんな日が何日か続いた後、やがて私一人になった。私一人だけになってチルノちゃんは怒るかと思ったのに、逆に笑い私にこういった。
「そう、あなた一人だけになったの。じゃ、ここまで耐えたご褒美にお城へ招待してあげるわ!あなた、名前は?」
 名前を問われた。そういえば、妖精には名前を持った妖精は少ない。もちろん、私にも名前は無かった。
「名前が無いのね…じゃあ、解ったわ。私が考えておいてあげるから、今は…そうね、皆より耐えた量が違うから、『大妖精』でいいんじゃない?」
 そう。この時にあだ名という形で今の名前が出来上がった。まさか、現在に至るまで使うことになるとは思ってもいなかったが――。そうして私は城に連れられたが、緊張でただボーっとしていて何があったかあまり覚えていない。ただ、チルノちゃんのお母さんに言われたことは凄く記憶に残っている。
 ――チルノのお友達なの。チルノはあんまりあのおてんばさからかお友達があんまりいなくてねえ…。良かったら、一緒に遊んであげて?――と。
 それを聞いて、私は静かに頷いた。そしてその日から、チルノちゃんとのあわただしい日常が始まった。危ないこともした。面白いこともした。チルノちゃんが来てから、いたずらばかりだった毎日に更に拍車がかかったようになって、本当に楽しかったのだ。
 そんな日が当たり前になってから何ヶ月後に、急にチルノちゃんのお母さんに呼ばれて二人だけで話すことになった。
「私はこれから異変を起こすわ。理由は、チルノに少しでも成長してもらうため。私が退治されて少しの間倒れれば、あの子は一人で頑張らなければならない。そうして、私が復活する頃には幾らか成長出来ているはず、という計画なの。これをするためにあなたに頼みたいことがあるの。紫に私が異変を起こすことを伝えてちょうだい」
 それを聞いた私は戸惑った。チルノちゃんのお母さんは、氷の女王で幻想郷を創った賢者の一人だった。当然紫とも面識があるだろう。戦うことになってもいいのか――だが、チルノちゃんのお母さんはそれよりもチルノちゃんのことを重く捉えているようだった。私は言われるがままに紫にこのことを伝えた。思えばこれをしなければ何も変わらなかったかもしれない。
 案の定異変をとめようと女王に襲い掛かった紫が、戸惑いながらも女王に攻撃を加えているのが見えた。まあ、後で説明してあげればよいだろう――と少し笑いながら思った。チルノちゃんは二人の戦いを影で見守っていた。
 しかしここで誤算があった。
 紫は女王を殺したのだった。紫は賢者ほどの力を持った妖怪が異変を起こしたということを危惧し、苦渋の決断で跡形もなく消し去ることを決意したらしい。普段ならば妖精の言葉など信用しないだろうが――今回ばかりは違ったようだ。ちなみに、チルノちゃんが知っているのはここまでだ。これ以降のことを知っていればまだ何か変わっていただろう――。
 壁に横たわる女王に近寄った私は、掠れた声で発した女王の声を聞き逃さなかった。
「そうね。何も考えず、ただ無邪気に生きてほしいから…これからこの子はお馬鹿と言われるかもしれない。けれどそれは孤独を知るよりはマシ…大妖精ちゃん、あなたにお願い。チルノのそばにいてあげて。」
 そうして女王は最期の力を振り絞って眠らせたチルノを妖精に変え――城を封印し、湖の奥底に沈めた。
 女王の存在は今からも歴史からも葬り去られた。賢者が異変などと知られれば人間の心に何かが芽生えてしまうからだ。天狗は知っているが、誰も話そうとしない。幻想郷に最初からいなかったことになったのだ。
 湖の近くの木に横たわって眠っている妖精になったチルノちゃんを見ながら私は決めた。変わろう。チルノちゃんを助ける為に、いたずらばかりするんじゃなくて。お目付け役になろう。と。
 そうして、チルノちゃんが眼を覚ました。
「ん…んぅ…?あなた、だあれ…?」
 その言葉をきっかけに涙が流れた気がした。さあ、名乗ろう。私の名前を。












  「私は大妖精!よろしくね、チルノちゃん!」







To be continued…