毅然とし、それとなく。

気まぐれでありつつ適当に書き記す。

【東方小説】東方刻奇跡 10話「妖しく紅く。」

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「お姉さま、そんなに睨まないでよ。だってお姉さま、もう終わりなんだよ?」
 そのフランドールの言葉にレミリアは周囲を見回した。レミリアの周囲には囲むように弾が出現していた。――禁忌「カゴメカゴメ」――それを見ても焦り一つ表情に出さなかったレミリアは、姿を霧と変え弾の牢獄から難なく抜け出した。
「フランドール…あなたは吸血鬼の能力をしっかりと覚えているのかしら?…いや、もうそれもどうでもいい。咲夜を殺した罪は…死んで償ってもらう!」
 右手をフランドールに向けて突き出すと、凄まじい勢いで弾幕を一列に繰り出した。――紅符「スカーレットシュート」――



 早苗は、それをただ眺めることしか出来なかった。
 目の前で哀れな闘いが繰り広げられているというのに、止めることすらままならなかった。何故なら、これは弾幕勝負でも遊びでもなんでもない。明確な殺し合いなのだから。
 おかしいな…こんなことも覚悟してこの世界にやってきたというのに。身体が震えて仕方が無い。目の前の残酷さが受け入れられない。早苗は自らを嘲笑した。こんなんじゃ――神奈子様と諏訪子様に笑われちゃうな…。覚悟を、決めないと…。
 そうして早苗は動こうとすると、パチュリーが制した。
「無駄よ、あの二人の本気の闘いに介入しようとしているのなら。…わざわざ向かっても無駄死にするだけ…。特に、あなたみたいな目標を持った人ならば、ここで倒れている場合じゃないでしょう。一時の感情に身を任せても後悔するだけ――忠告はしたわ。後はあなた次第」
 忠告を受けて、早苗は下唇を噛み締めた。自分を選ぶか、他人を選ぶか…人の心にとって究極の選択…それなら!
 早苗は奇跡の詠唱をし、紅魔館全体を淡い光で包んだ。こうすれば、どれだけの力がぶつかろうともこの館は壊れない。それを見たパチュリーが眼を瞠った。
「こうするだけでも…また違ってくるでしょう?」
 そんなパチュリーを見ながら笑顔で早苗はそう言った。


***-フランドール-****


 ああ、どうしてこうなっちゃったんだろう。
 フランドールは、偽りの狂気をさらけ出しながら心の隅でそう思った。
 咲夜が自殺して――何でなのかはわからない――立ち尽くしていたら、お姉さまが私に向かって怒ってる。なんで?なんで?なんで?咲夜を殺したのは私じゃない。誤解なんだよ。違うんだよ、お姉さま。そう弁解しようとしたら、考えが浮かんだ。咲夜はお姉さまに捨てられたみたいな言い方をしていた…だから自殺したのではないか?二人は昔からとっても仲がよくて…羨ましくて。私もその中に混ざりたくて…。
 咲夜の強い忠誠心は変わらなかったのに、どうして捨てるみたいなことをしたの?それじゃ、咲夜が可哀想。…咲夜の為に、お姉さまを叱らなきゃ。そうして私は口を開いた。
『アハハハハハハ!!ハハハハハハハハ!!!馬鹿みたい!お姉さま!たかが従者が殺されたくらいでそんなに怒るなんて!!』
 ――え?待ってよ。私はこんな事をいいたいんじゃないんだよ。お姉さまを落ち着かせて、それから咲夜の気持ちをしっかりと話してあげるんだよ。そう思っても、言葉は全く正反対の事を発し続けた。ああ、そうか。今までお姉さまと全然仲良く出来なかったから、その溜まり続けた憤りが頭をかき混ぜてるんだ…自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。

 もう、いいや。考えるのはやめて、このまま流れに身を任せよう…。

 カゴメカゴメを抜け出したお姉さまが私に向かって攻撃してくる。これはスカーレットシュートか。私は禁忌「カタディオブトリック」を使って弾幕を相殺させた。似てるね、このスペルカード。姉妹だから当然か。対立して使うことになるとは思ってもいなかったよ。
 お姉さまがスペルカードを万遍無く駆使して攻撃してくる――神罰「幼きデーモンロード」――獄符「千本の針の山」――神術「吸血鬼幻想」――紅符「スカーレットマイスタ」――いっぱい、いっぱい。私も絶えずスペルカードを出す。身体が勝手に動いているんだ。
 禁忌「スターボウブレイク」――虹色、綺麗だね。この光を三人で見たかった。
 禁忌「レーヴァテイン」――お姉さまはその光を避けていくけど、私はお姉さまの死角を突いて弾幕を放った。それをお姉さまはグングニルで弾いて私に襲い掛かった。急いで避けようとしたけど、お腹の辺りに痛みが走った。見ると、左片方のわき腹に傷が付いていた。痛い。痛い。
 禁忌「恋の迷路」――迷路、か。私は既に迷路に迷って手遅れなのかもしれないな…姉妹の仲という迷路に。
 禁忌「過去を刻む時計」――この名前、咲夜を思い出すな。時計は針を止められないんだよ…やり直せないんだよ。なんて、こんな名前つけたの私なんだけどね…。
 禁忌「そして誰もいなくなるか?」――いなくなっちゃ、駄目なんだよ。この破壊の力さえ使わなければ…ずっと一緒なんだ。

「禁忌…「フォーオブアカインド」ッ!」
 私は四人に分裂し、激しい弾幕を放った。お姉さまはそれをかわし、当たりを繰り返していた。その途中お姉さまはスペルカードを放った。
「全て消え去れ…スカーレットディスティニーッ!!」
 速く、濃い弾幕がお姉さまを中心に放たれていく。速過ぎて追いつけない。分身がかき消え、私は吹き飛ばされた。

 とても、時間が長く経った気がする。夜ってこんなに長かったっけ。
 気が付いたら、私とお姉さまの身体は傷だらけで、息も絶え絶えだった。もしも、二人が跡形も無くなるほどになれば…一緒に逝けるのか。咲夜に会えるんだ。
「一緒に逝こう…お姉さま」
 私はQED「495年の波紋」を繰り出した。お姉さまは「紅色の幻想郷」。
 この波紋は、一体何を表して作ったのか…今ではもうどうでもいい。苦しみだったかもしれない。そのぶつかり合う激しい弾幕の中で、私は手にレーヴァテインを出してお姉さまに向かっていった。それに対抗しようと、お姉さまはグングニルを出した。
 これで最後だよ。あれ、視界が歪んでくる…どうして?
 光と光がぶつかり合い、私とお姉さまは光に包まれた。






  お姉さま、咲夜に会って、ゆっくりと話そう。今からでも遅くないよ――ね?お姉さま…




*******



 光に包まれる瞬間に流れた、フランドールの一筋の涙にレミリアは気づくことはなかった。




To be continued…


あとがき
紅魔館編クライマックスでした。なんか改行とか色々多かったけど大丈夫かな、ちゃんと読みやすくなってるかな。
しかし前作の最終話を軽く突破するのか今回は…まだまだ序盤だぞ。何話かは未定ですけど。
次回で第二章「紅の深淵に」終了です。
それではまた来週。