毅然とし、それとなく。

気まぐれでありつつ適当に書き記す。

【東方小説】東方刻奇跡 3話「守矢一家、紅魔館へ行く」

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ここは幼き悪魔の住む館、紅魔館。そして、その館のベランダに椅子とテーブルを置いて優雅に座っている――もちろん、日傘は差している――のは、館の主である「レミリア・スカーレット」であった。レミリアは、その隣に立つ完全で瀟洒なメイド「十六夜咲夜」からティーカップを受け取ると、静かにそれを口に運んだ。
「あら、おいしいわね。いつもと違うようだけど、一体何を使ったのかしら?」
少しだけ飲んでレミリアは笑うと、咲夜に向かって質問をした。それを見た咲夜は口籠ると、「あ…それが…」などと曖昧な返事をするばかりだった。
「答えなくていいわよ。どうせ作者がお茶の知識ないから言いようがないんでしょう」
レミリアはそれだけいうとまた口にティーカップを運んだ。
「は、はい…申し訳ありません…」
一通り飲み終えてティーカップを置くと、レミリアは両肘をテーブルに置き、両手で頬杖をついた。
「咲夜が謝ることじゃないわよ。それにしても作者はもうちょっと調べる気ってものを起こさないのかしら」
返す言葉がない。
「はー、暇ねぇ。咲夜、何か暇潰しになるものはない?」
「暇潰し…ですか。そうですね…守矢の方々に何か面白いものを持ってきてもらうというのはいかがでしょう?最近の異変の原因が大体あの神社なのですし」
咲夜が指を立ててそう言うと、レミリアは顔をしかめた。それも当然だ。最近の異変の原因になっているのだから、また厄介な大事に巻き込まれてしまうかもしれない。だがそれも、暇潰しにはピッタリな冒険だ。レミリアはニッと笑うと、咲夜に向かって指示を言った。
「咲夜、守矢神社まで行ってうちに来てもらいなさい。当然、面白くなりそうなものも持ってくるのよ」
それを聞いた咲夜はレミリアに向かって一礼すると、突然フッと消えた。咲夜は時間を止める能力を持っているから、移動する間時間を止めれば、時間をかけずに向かうことが出来るのだ。



1時間後。
「…た、確かに面白いものを持ってこいとは言ったけれど…」
レミリアが片眉をピクピクと動かしながら、微妙な表情でいた。
目の前には諏訪子、早苗、神奈子――と、守矢神社に住む者がそろっていた…のだが、一人だけこの華奢な面々とは明らかに違った雰囲気を出している男性がいた。それもそのはず、その男はとても屈強であった。その肉体美をさらけ出すように上半身はほぼ裸――もちろん下半身は全裸ではなく俗に言うダメージ系のズボンを穿いている――であって、茶色の髪と髭を長く伸ばし、いかにも山奥で静かに肉体修行に励んでいそうな感じなのだった。
「なんなのよこの男は――――――!?」
レミリアの色々な感情が混ざった声が紅魔館中に響き渡った。
「ヘェイ、コンニチハ!ワタシマイケルデス」
「しかも外国人だった!?というかマイケルってどんだけありがちな名前なのよ!!いくらなんでも適当すぎるでしょう!!」
突っ込みを重ね続けたレミリアは、一度一息ついて深く深呼吸をした。
「…で、早苗?これは一体どういうことかしら?」
落ち着いたレミリアが横目で早苗を見ながら言った。それを見た早苗は「はい☆」と声をあげた後、一通りの説明をしだした。

――実は数日前、この方が神社の前で倒れててですね。どうやら幻想郷に迷い込んでしまったようなんですよ。仕方ないからうちの神社に置いてあげたんですが、とても情が厚い方で、置いてもらう代わりに色々働くと言ってくれたんですよ!こちらとしては嬉しい限りだったので、家事を一通り頼んでみました。そしたらなんと!早い!うまい!やすっ…いや、安さは関係ないか…どの仕事もてきぱきでしかも正確にやってくれたんですよ!これはとっても有難いと思いました!私たちも感謝しています!――

「へえ、成程?つまりとっても家事が楽になるから一度紅魔館に来てもらったと?生憎、そういう家事全般は咲夜で間に合ってるのよ。悪いけどその人は必要ないわ」
自信満々で告げるレミリアに咲夜が横から言葉をかけた。
「お嬢様?私としては、人手が増えたほうが助かるのですが…」
それを聞いたレミリアはふむ、と顔をしかめた。確かにそうか…だが、咲夜の時間停止能力の邪魔になるのではないか?ものは試しか。咲夜もそう言っているのだし、やってみるのもいいかもしれない。それを眺めるのもまた、良い暇つぶしだ。
「分かったわ。一日だけよ。それで判断するわ」
そのレミリアの言葉を聴いた諏訪子が、マイケルに近寄り体を肘でつついた。
「だってよー?良かったじゃんマイケル」
「ハイ…!ワタシウレシイデス!!」
マイケルは心の底から嬉しそうな声をあげた。


その後、マイケルは芳し過ぎるほどの働きを見せた。咲夜のサポートもしながら、自分の役割以上の働きをしてみせた。
そして日が暮れかけたころ、紫がふっと唐突に現れた。
「マイケル。楽しめたかしら?」
紫の問いに、マイケルは笑顔で答えた。
「ハイ…!ミナサントテモヤサシイカタデ、コンナワタシデモヤクニタテタトイウコトガウレシクテタマリマセンデシタ!…デモ…ヤッパリソトニモドリタイデス」
その言葉に、紫は腕を組んだ。
「そう…それならそれでいいのよ。さぁ、行きましょう」
紫の出した隙間に入ろうとするマイケルを、レミリアが止めた。
「待ちなさい!あの咲夜との連携には惚れ惚れしたわ!ぜひ紅魔館に住みなさいよ!」
それを見た神奈子が一言呟いた。
「紅魔の唯一の突っ込み役が消えた気がするんだけど…?」
呟きを聞いた早苗は現実を否定するように言った。
「違います違いますそんなことないですってきっと気のせいですってまだ突っ込み役いますって」
すると唐突に、レミリアはすがりつくような動作をやめ、マイケルから少し離れた。
「…でも、やっぱり私には咲夜だけでいいの。呼び止めるようなことしたけど、私は咲夜がいれば十分。だって、大好きだから…ね?」
レミリアは咲夜のほうを向いて微笑んだ。それを見た咲夜は微笑みを返した。
「だから、やっぱりあなたは外の世界へ戻って自分のやりたいことをやりなさい。いいわね」
それを聞いたマイケルは微笑んで頷くと、静かに隙間へと入っていった。もしかしたらマイケルはレミリアと咲夜の絆の間には入れないと最初から分かったいたのかもしれない。それほど二人の関係は強いものだった。




「…ところでマイケル帰っちゃったからまた家事やらなきゃ駄目じゃん」
諏訪子がそういうと、早苗は一息ついていった。
「任せてください。マイケル以上の働きをしてみせますよ」
自信満々で言う早苗の頭を、神奈子がぽんぽん、と叩いた。
「ははは、じゃあ任せたよ早苗」
ここにもまた、深い絆が存在した。
神社へ帰ろうと歩く三人を夕日が照らしていた。





To be continued…