毅然とし、それとなく。

気まぐれでありつつ適当に書き記す。

【東方小説】宵闇の狂気 9話「今であるために」

宵闇の狂気まとめへ戻る


巨大な闇の中。
私――博麗霊夢は、周囲が暗闇に包まれている中を、一直線に歩き続けた。今の私には時間がない。立ち止まってはいられない。急がなければ…取り返しのつかないことになる。
私は少し足を早めて、突き進み続けた。
すると、人影が見えた。ルーミアだった。
「―――!!」
そのルーミアの姿を見た私は、突如強く頭を叩きつけられたような感覚に襲われた。だが痛みは一瞬で、焦った私はすぐに平静を取り戻した。その痛みは、今の私にとって重要な物を渡してくれた。
術が、解かれた。私は『ルーミア』という存在の全て――そして、彼女が関わってきた出来事全てを思い出した。それを即座に理解すると、私は静かにルーミアに語りかけた。
ルーミア。私よ、霊夢よ。分かるかしら」
声をかけてから、静寂があった。私は静かにルーミアの顔を覗いた。すると、光無き瞳――感情無き表情で、こちらを覗き返して来た。私は、その表情に少し気圧されながらも、ルーミアの顔に触れようと手を伸ばした――次の瞬間。
「―――あなた、だあれ?」
その一言。その一言を聞いたと思ったときには、ルーミアの周りに引き起こった爆風――本当に風かどうかはわからない――が私を襲った。吹き飛ばされ、地に叩きつけられた私の顔は、衝撃に満ちていた。今の爆風にではない――ルーミアの発言に。
忘れている…?どうして…?一体何が…と、そこで私はさっきのさとりの話を思い出した。
『つまり、今まで見ていた『ルーミア』は、もう戻らないということよ―――』
封印前の人格。それがもう既に露わになっているならば、記憶も封印前に戻っているのだろう。それなら、私のことも――チルノのことも、大妖精のことも、忘れてしまっているのだろう。自分が食べたのにも関わらず。いや――今のルーミアはもう、ルーミアではないのだから、そんな皮肉は意味が無い。尤も、こんな状況で皮肉を言う程の余裕はないわけだが――。
そんなことを考えていると、私の疑心が確信へと変わるような言葉がルーミアから放たれた。
「ヒヒヒ・・・・・・ハハハハハ・・・・・・・・ハハハハハハアハハハハハハハハアアハハアアハハハハハハアハハハキャハハハハハハハハ!!!!!!!」
ルーミアがおかしな笑い声をあげたのだ。私の知っているルーミアなら、こんな声はあげない。でも、こんな狂った声…本当に、ルーミアじゃなくなってしまったのか…。

********

大丈夫かしら、霊夢は…。
傷だらけになりながらも静かに木によりかかり座った私――八雲紫は、まずは一息ついていた。
力があれば、どれほど傷があろうとも治癒できる。しかし、今は力を使い果たしてしまった。しばらく、この痛みに耐えなくてはならないようだ。思えば、こんなことは初めてかもしれない。
私は天を仰ぎ、夜明け前の空の美しさに魅了された。
そして私は、ルーミアを包む闇へと入っていった二つの『光』に、気づかなかった。

********

どうする…?もう、封印前の人格が露わになってる。ならば、一筋縄ではいかないだろう。やはりルーミアを、消すしかないのか…。
そこまで考えて、私は考えを捨て去るように首を左右に振るった。そんな考えは駄目だ。何か方法があるはず――。存在すら消してしまえば、何か幻想郷の均衡が崩れて――いや、そんな難しいことじゃない。私が、一緒にいたい。今の状態から、変わらないでいてほしい。友達とか、仲間とか――そんな茶番劇みたいなことじゃなくて、一緒にいるのが、楽しい。ずっと笑っていたい。それだけが私の――博麗霊夢の、望み。今であるために――私は止める。必ず、ルーミアを。
私はゆっくり立ち上がり、覚悟の瞳をルーミアに向けた。それが引き金だったかのように、ルーミアは最早表情を浮かべずに襲い掛かってきた。致命傷は避けなければならない。私が倒れても駄目だ。かといって、ルーミアを倒しても駄目だ。とにかく、今は目の前の攻撃を耐え切らなければ。私は、御札を手に取り、盾を作り出した。この攻撃の正体は掴めなかった。闇?それとも別の何か?分からない。
私は攻撃する隙すら与えられずに、得体の知れない攻撃を防ぎ続けた。その盾が、見る間にも破壊されそうになっていく。どうする。まだ攻撃は止む様子はない。このまま盾が破壊されれば私が持たない。


万事休すか。そうか――――――――・・・


「そーなのかー…」
何故だか、私は無意識にルーミアのあの口癖を呟いていた。その言葉を聞いたルーミアに、ほんの少しだけ隙が出来た。まだ、封印後の人格が残っていたのだろうか。何がともあれ隙ができた。私が攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、
「やめて!」
私の後ろから二つの光が現れた。その二つの光が、ルーミアの中へと入っていった。









To be continued